舞台『管理人/THE CARETAKER』2022/11/18
舞台『管理人/THE CARETAKER』開幕おめでとうございます!
<Schedule>
東京公演 2022年11月18日~11月29日
会場:紀伊国屋書ホール
兵庫公演 2022年12月3日~12月4日
会場:兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール
再び新型コロナウイルスが増えてきて各界隈中止になったりと未だ安心して観劇できる日々には戻っていないので席について始まるその時まで、幕が下りるその瞬間まで不安だなぁと思いつつの初日観劇でした。
ストレートプレイもミュージカルも観劇経験まだまだ未熟な私は当然足を踏み入れたことがない劇場がたくさんあります。
2021年にリニューアルした紀伊国屋ホールもいつか行ってみたい劇場のひとつだったので、達成くん経由で行くことができて嬉しかったです。
ホールに向かう際も店内の至る所に管理人のビジュアルポスターが貼られていました。
劇場に入ると劇場の舞台美術模型が飾られていました。
この模型の通り、舞台セットは転換せず一室の中だけで物語が進みます。
ハロルド・ピンターが1959年に執筆したという今作はピンター特有の『間』を多用した所謂『不条理』を描いたもの。
達成くん関連もインタビュー等見ても「不条理劇ってなんぞや…難しそうだな」という印象で不安がありました。
しかし今回も原作には触れず、ざっくりとしたあらすじのみで初見に挑みました。
まず初見のひとこと感想
めっちゃ面白かった!
達成くんの前回出演作である血の婚礼も比較的難しいというか、あちらは言葉の使い方に馴染みが薄いという印象だったのですが、難しそうとかなり警戒していた管理人は私はとても面白く楽しめました。
でもこの『面白い』という言葉だけを短い文で感想として放流したままにするのは違うなと思っているので以下はネタバレありの感想です。
登場人物と役者さんの第一印象
デーヴィス(Act イッセー尾形)
職を失って、偶然アストンに拾われ居候になる老人
イッセー尾形さんは映像では何度か見たことがある程度ですが、「一人芝居」の第一人者として高く評価されている役者さんということで生でお芝居を観るのが楽しみでした。
板の上に立つイッセー尾形さんはテレビで知っている顔つきや管理人のメインビジュアルのダンディなおじさまの雰囲気は一切なく、紛れもなく「老人 デーヴィス」でした。
一歩歩くだけで、手の動きだけで、瞬きひとつどこを取っても「こういうおじさんいるよね」とストンと入ってくる姿とお芝居に圧倒されました。
アストン(Act 入野自由)
第一声で「入野自由くんだ!!」とテンションが上がってしまうよく通る声
生でお芝居を観るのは初めてでしたが、声と活舌の良さとお芝居の良さはきっとアニメで見ていた印象と同じく素敵だろうなと楽しみにしていました。
かっちりした身なりをしていて失職したホームレス同様の老人に手を差し伸べるような優しい青年なのだろう。
ところでアストンの部屋、壁紙が途中まで剥がされ、汚れが溜まっていて、ものだらけだな。買い物のカートが部屋にあるなんて…もしかして盗ん…
ミック(Act 木村達成)
血の婚礼では舞台上では初めてのロン毛でお鬚姿でのお芝居でしたが、管理人ではもう少し髪は整えてくるだろう…と思っていたのですが、ゲネプロのお写真を観たらびっくり!ロン毛が残っているだけでなくお鬚まで残っている!
私は達成くんの芝居の『間』が好きなので管理人もその『間』を楽しみにしていました。
部屋に入ってくるなり強い言葉を怒涛のごとくデーヴィスに投げかけるアストンの弟
『怒』のような、圧のような、煽りのような言動でやってきたかと思うとコミカルでいたずらっ子のような顔もチラつかせる。
見た目こそ血の婚礼のレオナルドのままのように見えるが、言葉の投げかけ方も感情の作り方も大きな性質としての喜怒哀楽の区切りでいえば『怒』であるような気がするが、そこに『レオナルド』を引きずる木村達成はいなかったです。
御三方全員に言えることですが、膨大な台詞量を息継ぎなしにそれも嚙み合わないから噛み合わない芝居として一人で喋っているように次々と台詞を続ける姿が凄い。
これだけの長台詞を、初日でも噛まず作りこんでくる達成くんは流石だし、あの声の良さと活舌の良さを遺憾なく発揮しているのでは。
舞台美術・演出について
昔から好きな舞台でもあのセット好きなんだよね~というざっくりとした感情はありましたが、個人的には白井晃さんが演出した『音楽劇銀河鉄道の夜2020』、『ミュージカルジャックザリッパー』を経て舞台美術、ライティング等々脚本や役者のお芝居以外の部分を見るのもさらに好きになったし作りこまれているものが好きなので管理人の舞台セットも好みでした!
上手にアストンのベッド、下手にミックが泊まりに来たら使うけど普段は物置き場と化していたデーヴィスに割り当てられたベッド
壁は壁紙を剝がそうとしたのを途中で投げ出したようになっているし、カーテンをはじめ布類は埃をかぶっていて皺だらけ。
何年も溜めたのであろう新聞紙のタワーに何故あるのかわからないスーパーのカート。雨漏りを防ぐバケツはランプの様に天井から吊り下げられていて、ガス栓の繋がっていないコンロにこの部屋には似合わないが一番気に入っていそうな仏像。
物に埋もれた二つのベッドとその間にある窓がこの部屋とこの作品の象徴のような気がしました。
こういう舞台セット、小道具などはすべてあえて汚しが入っているものだと思いますが、制作は違えどジャックザリッパーの時の研究室と同じで今にも臭いと使用感が伝わってくる作りが好きでした。
下手に扉があって上手は荷物の山で潰されていて、移動はどうなっているのだろうと思ったのですが、初日のバッグ争奪ドッジボール(と呼ぶことする)のあとたつなりミックが窓の方にバッグを投げた際に勢い余って窓下の壁が抜けていたので(さらっと自由くんがバッグ取りつつ直していた)扉を介していない時に捌けるときはあそこを使っているのかな?という感じがしました。
基本的に何か楽曲を使ってシーンを盛り上げることはなく、無音の状態のままただ一人の、二人の、三人の言葉だけが紡がれていく。
その中に生活音として扉のガチャりとする音が話の転換する目印のように聞こえたり、爆音で掃除機の音が聞こえてきたり、そうかと思えば雨音が会話を割ってきたりするのが心地よかったです。
管理人では音楽の力やライティングの力で物語をドラマティックに仕立てることはせず、人の言葉と生活の音と光以外を極力抜いているように思いました。
ライティングに関しては朝昼晩と空の明るさや部屋の明かりなど極力派手さを減らしているけど、だからこそアストンの独白でのライティングの使い方が物語の中にグッと引き込まれるトリガーのようになり、でも決してぶつ切りで不自然なものにはなっていないなと。
物語の運びとスイッチしていく人間の力関係
失職し宿なしで差別主義者で人の話は聞かず、言いたいことを好き放題言う老人が兄と弟の二人の男たちから管理人にならないか?と言われ、どちらにいい顔をすればいいのか、どちらにもいい顔をして…という話はデーヴィスとアストン、デーヴィスとミックというデーヴィスを真ん中に置いて進んでいきます。
拾ってもらった割に自分の話をするときは歯に衣着せぬ物言いのデーヴィスだが、それでも最初はアストンに寝床を恵んでもらったりお金をもらって低姿勢で過ごしていて、アストンはこんなに面倒くさくて口の悪い人を連れてきて優しくするなんて優しいな…という印象だけど、家の修理や小屋を建てる目標はおろか、最初にデーヴィスに求められた「靴を探すこと」すらゆっくり。
しかもお気に入りらしい部屋に似合わない仏像のことは「拾ってきたんだ、店で」などど言っている。
カートが家にある不自然さも含め、彼はガラクタをいろんな意味で拾ってきているのだなあと思ったし、あれ?こんなに身なりはきっちりしているのに部屋の汚さといいちぐはぐさの理由が徐々に露呈していく。
アストンのちぐはぐさの輪郭が見えてくるようになると同時にデーヴィスはでかい顔をしてくるが、そこにミックがやってくるとまた力関係が変動する。
ミックはデーヴィスが息をする間もないほど何してる!? 名はなんだ!? 人のベッドで寝たのか!? 等々兎に角ものすごい勢いで捲し立てるので、やれ黒人が、インド人が~と口汚く喋っていたデーヴィスはミックにはアストン以上に低姿勢で話すようになる。
デーヴィスを捲し立てるミックはその勢いが凄くて圧が凄いのだけど、「で?」が本当怖い。
会話の中で「で?」と思うこと、あるはあるじゃないですか。でも対話する気があるなら「で?」なんて言葉は避けるものだと思うけど、ミックはバッサバサとで?と続けて追い詰める。
だけどミックの二回目以降の登場ではお茶目にふるまってみたり、少しずつデーヴィスとの距離も奇妙に縮まっていく。
徐々にアストンに対しての距離感が変わっていったデーヴィスだが、一番の転機はアストンの独白だろう。
ある時アストンは自分の過去を語りだします。
それまでもアストンとデーヴィスの会話はそれぞれ自分の話が長く何度も繰り返されていたけれど、その時のアストンはデーヴィスが横から茶々を入れられないほどの、淡々とはしていたけれどそれこそミックのような次々と言葉を繰り出すようにして過去の話を話出す。
この時はデーヴィスも黙って話に聞き入るようにしていて、照明が段々暗くなっていき、ついには部屋の中にはアストンしかいないかのような演出が印象的でした。
恐らくこの時代は知的障害や精神疾患のような症状に対しては隔離して閉じ込めて…等々があったはずなのでアストンもそのような理由で隔離され手術を受けさせられたことが分かりました。
この長い独白での自由くんのお芝居は凄く突き刺さるものがありました。
アストンの一番感情が見えたシーンでもあり、それがこの家の中の不自然さ、ちぐはぐさの理由だと分かっていきました。
そしてこの話を聞いてからのデーヴィスはアストンを下に見るような言動をとると同時に益々ミックに擦り寄っていきます。
しかしアストンとは一緒にいられない、アストンみたいなやつではなくミックみたいなやつとなら上手くやれるとデーヴィスに擦り寄られと、ミックは兄のことを悪く言うのか!と言う。
ミックはアストンが帰ってくるとそそくさと帰るし二人が対話するシーンは少ないが、それでも彼なりにアストンを気にかけていて、そして不器用ながらも愛しているのが伺える瞬間があり、そのほんの一瞬の達成くんの表情が切なくて胸がぎゅっとしました。
最終的にどっちにもいい顔をして、かつ自分よりも上の立場にいると思っているミックに擦り寄り、そして自分より下だと認識したアストンに傲慢さをぶつけた結果、交わらなかった兄弟が目配せし通じる瞬間が出来、アストンの拒絶によってあの家にいられなくなるという結果に。
ミックの方が感情的で内側が見えやすくなっているけど、少ししたら距離が縮まるのに対して、アストンは優しく見えてなかなか心の内を見せないし、デーヴィスに対する鬱憤が溜まってそれを放出するころにはもう修復不可能なほど分厚い扉でデーヴィスを遠ざける。
物語の最後は『ここで終わるのか』という終わり方だったけれど、兎に角この強者と弱者という勝手な認識がスイッチしていく様がおもしろいなと思いました。
この人は自分より強い、敵わないと思ったらその人についていくのに、自分より弱者だと認識したらその人が例え宿や服やお金を提供し、過去のことや現状を責めず傍に置いてくれたにも関わらず下に見る。
管理人という雇われる立場だったにも関わらず、アストンに出ていくのはお前の方だとまで言う。
ミックには腕力も社会的地位も勝てないと分かっているのでへこへこ相棒面をしてミックとデーヴィスの力関係、デーヴィスとアストンの力関係、デーヴィス一人見るだけでも一人でころころと自分の認識で立場が入れ替わって言動が変わるのが何とも滑稽。
最後アストンはデーヴィスのことを見向きもせず窓の外を眺めていて、ふんぞり返っていたデーヴィスは、結局アストンに再び自分を追い出さないでくれと擦り寄るが、その小さな背中は自分で蒔いた種なのに切なくも感じてしまいました。
不条理劇を観た感想の第一声は『面白かった』
これはもう役者さんたちのお芝居がとにかく凄かったということに尽きる。
イギリスのお話で登場人物は日本人の私からしたら外国人のはずなのに、イッセー尾形さんのデーヴィスは「街中にいるよねこういう話し方するおじさん」とスッと入ってきてしまう。
極めて日本のおじさんなのに、板の上にいるのはデーヴィスで、会話の途中で顔を触ったり話が何度も繰り返されたり、何にでも文句を言うくせに人の話は聞かない。
最初にデーヴィスとアストンが会話してるときに会話が一瞬止まって相手の出方をうかがっている姿もリアルで面白い。
力関係のスイッチがあるし、センシティブな内容も含まれるけれど、きっとこの作品を観た時に感じる面白い、こみ上げてくる笑いは決して弱者を指さして言っているのではなく、どんな立場にも共通している人間同士の対話の中での『話の噛み合わなさ』だとか『相手のことを問い詰める姿のリアルさ』だとか『喧嘩してるのに喧嘩の理由を途中で忘れた言動をとってしまうあるある』だとかそういうもので、その『間』が面白いのではないかと思います。
まだまだ観るたびに揉みがいがありそうな作品ですし、次回以降の観劇も楽しみ!
今回は原作等を読む前に初見のストレートな感想を残しておきたかったので、書ききれなかった感想もあるし、何より達成くんへの感想が少なめなので達成くんを中心とした感想もまとめられれば…
そして公開されているインタビューを再読し、パンフレットも読み込んで二回目に挑みたいです。
ありがたいことに原作を読む機会に恵まれたので、解像度を上げて楽しみたいしさらにこの作品の考察などしていきたいと思います!
ところでアストンの途中で放棄してしまう、気持ちはあるのに行動に移す能力がないという描写に、君嘘も血の婚礼の感想も下書きにある私は胸を痛めることしか出来なかった…いつか投稿します。